Night on the planet

「地上の夜」という曲の中で、小沢健二は、この地球における時間の概念は、星と自分との位置関係の中で説明できるということを、白昼夢的なイメージの羅列と、シンプルなギターソロの反復によって表現した。

時間と星の動き(天体の規則)の関係性、あるいはその連動性について考えると、そのあまりにも壮大な仕組みにクラクラしてしまうが、恩田陸の「夜のピクニック」はまさにこの「地上での時間の流れ」についてを、真摯に真正面から描いた小説だといえよう。


ストーリーは、高校3年生が高校生活最後の学校行事を体験する、その一日を追った、いわば青春群像もの。その学校行事というのも「歩行祭」なる、学校から出発して、ただひたすら歩いて、また学校に帰ってくるだけの、説明のための状況設定的イベントに過ぎない。

しかしながら、「この小説の中で流れる時間」は、ともすれば僕たちが日々同じだけ失っていっている時間よりも貴重なものに思えるほどの切実なリアリティを含んでいるのだ。


この小説を読むのに要する時間を仮に2時間とすると、この小説内で経過する24時間は、きっちり読み手の5分間が小説内の1時間に相当するような仕組みになっている。

つまり実際の時間と小説内時間経過の連動を作者は意図的に行っているのだ。

さらに、この小説で繰り返し提示されるのは次の2つのことだ。
1.『ものごとの順序』や『タイミング』について常に意識的でいること
2.それ(上記1)に意識的になった上で、不可避な突発的事象を受け入れる強さを持つこと

結局のところ時計の針は戻せない。
が、そんなことを考えている間にも、僕やあなたの傍らにある時計は、休みなく時を刻み続けるのだという事実。

だからこそ、いつだってタイミングには意図が働かなければならないし、すべての成り行きは受け入れなければならない。

この、当たり前のようでいてうっかり忘れてしまっていた摂理に立ち戻らせてくれたことが、この本を読んだ最大の収穫だったように思う。


ジャームッシュが「ナイト・オン・ザ・プラネット」の中で、ご丁寧にも時計の針を4回も巻き戻してまで証明しようとしたことだ。

それでも時間は過ぎる。地上の夜は移ろい、星の現在地は記憶にとどめる間もなく、さっと目の前を通り過ぎてしまうのだ。

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