『カポーティ』鑑賞

先週末、映画『カポーティ』を見てきた。

本作品は、トルーマン・カポーティの伝記的な内容で、
特に『冷血』の執筆過程をストーリーの中心に据えている。

『冷血』は、1950年代のアメリカで起こった一家殺人事件について書かれた小説で
20世紀を代表するノンフィクションの金字塔だ。

事件が起きてから、刑が施行されるまで、劇中描かれるのはおよそ5年と短い。

だが作家カポーティの最大のチャレンジと興奮と苦悩とが
入り混じって不思議な方向に向かっていく
この時期に焦点を絞った脚本がすばらしい。

この映画の良さは、あえて半生を描くようなことをしなかった潔さにあると言える。

そして、フィリップ・シーモア・ホフマンの演技が僥倖である。

『ブギーナイツ』では油のノッたこってりゲイを演じていたが、
こちらでは完全に洗練されたゲイ(いわゆるNYゲイ)に見事になりきっている。

F.S.ホフマンの相変わらず繊細な演技は、
カポーティの興味の対象が「作品(小説)をつくる」ということから、
次第に「犯人そのもの」に移り変わっていく、
心象の微妙な揺れや、確実な変化をきっちり表現している。


このように"リアルに存在する何か"を題材にして、
作品をつくっていく過程においては、
「作品となる対象」と「作品そのもの」に対しての
距離感がうまくつかめなくなることがある。

だからこの映画は、
天才(カポーティ)の特殊な題材(殺人事件)をテーマにしながら、
その心境変化の感覚は我々(凡人)の日常にも共有できる、というところに
面白みがあるように思った。

その複雑な心境変化のもたらすものは、
衝撃的でありながら、どこか身近であり、
きっと鑑賞後の僕たちの心からすぐに出てはいかないだろう。


ちなみにF.S.ホフマンは本作で2006年のアカデミー主演男優賞を獲得している。


そんなわけで、特に爆発もテロも恋愛も戦争も起こらないのだが、
この秋の夜長の口火を切るべく、恵比寿で静かに鑑賞するのに、
これ以上相応しい映画はない。
オススメ。

コメントする

※ コメントは認証されるまで公開されません。ご了承くださいませ。

公開されません

(いくつかのHTMLタグ(a, strong, ul, ol, liなど)が使えます)

このページの上部へ

プロフィール

The Great Escape by kajken

サイト内検索

最近のピクチャ

最近のコメント

Powered by Movable Type 5.14-ja