東京で平日の午後を過ごすこと(裁判所篇)

平日に休みをとったらやってやろうと思ってたことが、いくつかあった。
そのうちの一つが裁判の傍聴だ。

みなさんは裁判の傍聴に行ったことがありますか?

言わずと知れたことだけど、刑事/民事問わず、
裁判を傍聴する権利が国民にはある。

これまでに一度も裁判を傍聴したことがなかったので、
この機会に東京地裁に行ってみることにした、というわけである。

クリスマス直前の金曜日の午後、
買ったばかりのピーコートを着て、俺は地裁の前にいた。


court.jpg

これが、東京地裁の入り口。
霞ヶ関駅から出た目の前にある。

俺が「お〜このプレート本格的だな〜」と思いながら写真を撮ってたら、
ものすごい勢いで警備員が出て来て、
「ちょっ、、写真は止めてもらえますか?撮ってないですよね?」と駆け寄ってきた。


ええ、撮ってないです、といいつつ、実は一枚だけ撮っていた。
裁判所に到着直後にルールを破ってしまった俺。
まさに外道!
にしても建物の写真ぐらい、いいじゃないか。


入り口を入るとすぐに、空港の手荷物検査みたいなことをされる。
僕はここでもピーっと鳴って、鳴ったのがGRだったので、
ちょっと気まずい感じになった。
大丈夫です、中までは撮りませんからといって、切り抜ける。


そんなわけで、ここは裁判所の中である。
まずやることは、今日の法廷をチェックするのだ。
その日行われる法廷はファイルにまとめられていて、受付のところに数冊置いてあり、
傍聴する人は好きなようにそれを見て良いようになっている。

そこには、
・開始時間
・法廷(場所)
・罪状
・被告人の名前
・裁判の状況(新件〜審理〜判決)
などが書かれている。

そこからめぼしい物件を探して、メモって、法廷をまわる、
というのが基本的な傍聴人の作法である。

行ってみて初めてわかったことだが、
裁判所というのは傍聴人に対してとても親切にできている。

すべての法廷には検事・弁護士用のドアと傍聴人用のドアが分かれており、
しかも傍聴人用のドアには小窓が着いていて、中の様子が見えるようになっているのだ。
(ちょうど大学の教室みたいな感じ)


また、受付には職員がいて、傍聴に来た人からの質問に対して丁寧に応えてくれる。

行く前はなんとなく、
裁判に直接関係のない傍聴人なんて迫害されるんじゃないかと思っていたので、
ちょっと意外に感じた。


そんなわけで、そのファイルをペラペラめくりながら予定をたてる。


14時から詐欺罪でつかまった3人組見て、
15時からの麻薬取締法違反の女を見る、、、
んで、痴漢だかわいせつだかを見て、、、
なんて感じで、開廷時間や罪状などをメモっていくのである。

俺の隣には、2人組の女性傍聴マニア(たぶん2人とも20代後半)が居て、
「やっぱ『殺人』は見とく〜?」
とかいってる。

ばかやろう!不謹慎じゃねぇか!
いや、俺もやっぱコロシが見てぇ!と
こっそり彼女が見ているページを覚える。


もう一つわかったことは、傍聴人ってのは、興味本位が大半だ。
中には法律家になろうと日夜勉強を続けてるっぽい苦学生もいるが、
もちろん俺も含めてほとんどの傍聴人はヒマ人だと思っていい。

そしてせっかく興味本位できているのだからこそ、
その興味は全開にしたほうがいいということだ。
法廷も、なんとなく傍聴人が多い時の方が盛り上がっているような気がする。

そんなわけで、ミーハー物件を書き留め、さっそく法廷巡りへむかった。

結局、今回俺が見たのは、
・詐欺罪でつかまった3人組の審理
・痴漢(これは最初から判決まで)
・大麻所持の男性(判決のみ)
・殺人(審理)
以上4件であった。

この中で、一番見応えがあったのは、
何と行っても冒頭から判決まで一日で見ることのできた「痴漢」だ。

他の法廷は、意外に早く切り上げたり、
途中からなので状況がよくわからないものもあったりしたので、
いい意味でコンパクトな「痴漢」は、
傍聴ビギナーの俺にぴったりの物件だったのだ。

【529法廷】 痴漢

被告人は30代無職の典型的なダメ男。
みるからに冴えない、暗い顔をしてる。
雨上がり決死隊の蛍原から生気を無くして、
メガネをかけさせたみたいな感じのやつ。

いかにも行動力なんてなさそうな、地味なヤツなのに、
こいつが、被害者の女性に対して行ったことは卑劣きわまりなかった。

一人の女性に1週間で4回、痴漢をしたのである。
駅から降りても付け回して、エスカレータでもお尻を触ったりしたらしい。

っちょ、、おま、そんなことやってる暇あったら仕事しろよって感じだ。
しかもそんなヤツなのに、今年の6月から付き合い始めた内縁の妻が
いて、
しかもその女性は妊娠しているというのだ。
そして借金は300万円・・・。

お前、子供ができたのになんで痴漢してんだよ・・・。
結婚する気あるのかよ・・・。
罪状が読み上げられたとき、誰もがへこんだ。


hikoku.jpg

これが、その痴漢男の似顔絵。
一応、傍聴魂を見せる為に絵を描いてみた。

弁護士はなんと女性、小池栄子みたいな感じの女だった。
対する検察は2人組で、どことなく宮川大輔とほっしゃんのコンビみたいに見えた。

そもそも弁護士が女性ってのも、よくわからないが、
逆に女性だといいのだろうか・・・。
この人は資料を持ちながら陳述したりしていて、あまり巧くなかった。

他方、この宮川大輔似の検察官のプッシュははんぱじゃなくて、
超嫌みな言い方、だけど、巧い。

被告人が「仕事が決まらないストレスで痴漢に及んだ」と
主張していたところを、
「アナタはそういう性癖があったんだろ!じゃなかったら4回も痴漢しないだろう!」とぴしゃり。
「騒がれないから、もし今回みたいに告発されてなかったら、もっとエスカレートしたんじゃないのか!」と強くいい放つ。

なんと被告人はパンティの中に指まで入れていたというのである!

その勇気があったら、なんか他のことできるんじゃないだろうか・・・。
そう思わざるをえない。

「そもそも仕事のストレスと痴漢行為に何の関係があるのか知りたいい」と
ほっしゃんも静かながら、もっともな質問を繰り出す。
この2人の追求の仕方はなかなか格好良かった。

検察側は被告の痴漢行為は計画的であり、きわめて悪質、再犯の可能性もあると主張する。
それを聞いていると、たしかにこのバカ野郎は懲りてねいんじゃないの、と思ってくる。

弁護側が証人として用意したのは、
被告の父親、70歳近い老人である。

被告人は基本的に真面目で、真面目すぎるくらいでした。
仕事のことですごく苦しんでいたようです。本人も反省していますし、
今後は私が監督をしていくつもりです。
とぽつりぽつり語る老人。

切ない。
傍聴席にはその、内縁の妻とみられる妊娠した女性もいて、
彼女も立ち直るまで、見捨てないでくれると言ってるのだ。

いい歳して、お父さんや彼女を悲しませるなよ・・・。

にもかかわらず、そんな周りの人の沈痛さを他所に、
被告は今イチしゃきっとせず、
どこかうわっつらだけの反省を並べる。

俺はそんな被告人の態度にイライラしてきたのだが、
裁判官も同様だったようで、
「相手が厭がってるという想像力もないやつが反省するとは思えない」という
厳しい言葉。

そして、傍聴席をさしながら、
「今日、この傍聴席にアナタの知っている人は何人くらい居ますか?」
と被告に尋ねる。

被告が「え、いや、3人ぐらい・・・です」と応えると、
裁判官が「アナタがそういう人間だということを、
ここに居る不特定多数の人に知られてしまっているんですよ。
裁判というのはそういう場所だということをよく覚えておいてください」
とのこと。

傍聴席には僕を含め、10人ぐらい居た。
こうした知らない人に自分がそういう人間だと知られるのは、
たしかにすっごく恥ずかしくて嫌なことだよな。

でも、被害者の女性はもっと苦痛なんだ。
ちゃんとそのことを実感して、罪を償ってほしい。

そんな感じで、俺もいつの間にかいっぱしの傍聴人になっていた。
結局、求刑4ヶ月が受け入れられ、執行猶予が3年ついた。

長いのか、短いのかよくわからない。
4ヶ月も刑務所に入るのは、自分に当てはめて考えると、
ちょっと想像がつかないけど、
でもたった4ヶ月なんだ、とも思うし。

それでも彼にはまわりに信じてくれて支えてくれている人がいるから、
きっと立ち直るんじゃないか、という気もした。
もう、2度と痴漢行為に及ばないといいんだけど。

1時間の濃厚な人生劇場を見てしまった。

というわけで、「痴漢」の法廷は判決まで1時間、ランスルーで行われた。

他の事件は、途中経過だったのでちょっと物足りなかったが、
今回はこの痴漢事件にすっかり入り込んでしまったので、
なかなか面白かった。

ちなみに今日は午前中は、例の堀江被告の求刑がなされたので、
その報道関係か、道の前にはメディアの車が幾つかみられた。

地裁を出ると、霞ヶ関の街はすっかり夕闇に紛れており、
俺はピーコートの上からマフラーを巻き付けて、
地下鉄へと向かったのだった。

犯罪は、犯さない方がいい。
今日は強くそう思った。
特に痴漢はダメね。


参考:
僕が裁判傍聴にあたり参考にした本、
北尾トロ『裁判長ーここは懲役4年でどうすか』

最近文庫が出ました、面白いです。

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Comments [2]

No.1

傍聴しに行ったkajkenさんもすっかり入り込んでしまった様子ですが、
マユはこのkajkenさんの文章に入り込んでしまったw
思わず一度足を運んでみたいと思わせられましたよ。
素晴らしい文才だー。

No.2

>mayuさん

いつもコメントありがとうございます。
勇気づけられます、ホントに(笑)

裁判は面白いですよ。
タダなのにクオリティ超高いっす。
ぜひ一度、傍聴にいくことをオススメします!

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