数多在る世界遺産の中で最も魅力的かつ創造的なモノの一つが、
このマチュピチュだと云っても過言ではないだろう。
この地にたどり着くまでには、
現代人の我々ですらスイッチバック方式の列車で
クスコから3時間揺られることになる。
そしてさらに駅からバスに揺られること30分。
この幻影のような空中都市は、
高度3000メートル超の場所に突然、ぽっかりとその姿を現す。
1911年にアメリカ人の考古学者ビンガムが発見した際には、
遺跡を覆い隠すようにして、完全に樹木が生い茂っていたのだという。
この遺跡を少し引いてみれば、
周囲はあいかわらず鬱蒼とした森林に囲まれている。
なぜこんなアクセスしにくい場所に遺跡があるのかということは、
マチュピチュ発見以来、考古学者たちの間では議論されてきた。
王族や天文学者などが、
ある時期に政治のことを決めるためにやってきた
「避暑地」だったのではないかというのが、近年最も有力な説。
この地に居住していたのは建物の数から類推するに800名程度。
一つの街とするにはあまりに小さい規模である。
その割に神殿や段々畑、しっかりとした貯蔵庫などがあったのは、
つまり集中合宿をやる場所だったのだということだ。
ここは気の流れが良く、世界で最も瞑想しやすい場所らしい。
天文学を重視した当時の学者や統治者たちが、
この地を研究施設としたのいうのも、
此処に立ち、その空気を吸うと納得できる。
そしてスペイン侵略の際にも、その存在は明らかだったものの、
結局この場所が発見されることはなかった。
だからこそ、長い年月を経た今でも、
インカ帝国時代そのままに遺跡が残っているのである。
ガイドが話す、マチュピチュやインカ帝国のたどった歴史に比べると、
目の前の光景はあまりに牧歌的だ。
この地に確かに流れたであろう血は、きれいさっぱり浄化され、
今はただその美しい佇まいだけを見せてくれる。
圧倒的な大自然の中にある圧倒的な時間の残滓に
僕はただ呆然としてしまう。
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