『カナリア』 塩田明彦監督
ずっと気になっていた映画。
実は『Invitation』2005年3月号で蓮實重彦氏の評論を読んだ時から
見たいと思っていたのです。
少年が走る映画といえば、
『ニュー・シネマ・パラダイス』や『運動靴と赤い金魚』。
これらの映画には、いずれも心地よい疾走感がある。
少年達の疲労感よりも先にくるのは、前進する意志や、
その先にある目標(それは妹だったり好きな女の子)だったりするのだが、
この映画の主人公の疾走はとにかくやみくもだ。
走っている少年のモーションが切ない。
その手の振り方や足の運びには迷いがないのだけど、
進むべき道のりや明日の方向がまったく見えていないということを
僕たちはどうしたって感じてしまうからだ。
そして蓮實氏も指摘しているように、
少年の隣に「贅沢に」配された、少女の表情や仕草にも
同じ影が見てとれる。
そんな少年と少女のやるせない徒労感が美しい。
ただエンディングのZAZENBOYSの曲は素晴らしいにも関わらず、
この映画のラストとしてはやはりふさわしくない。
それが、ちょっと残念です。
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■『ティム・バートンのコープスブライド』
2005年のマイベスト映画、ぶっちぎり。
ストーリーもさることながら、その映像の美しさに息をのむ。
不覚にも終盤、涙した。
それも奇跡のような、というかただひたすら奇跡そのものみたいな映像美によって。
■『空中庭園』
2005年のマイベスト邦画、ぶっちぎり。
逮捕されてしまった豊田監督の置き土産(?)だが、まったくもって期待を裏切らない珠玉の名作。
小説『空中庭園』が今イチ冴えなかった分、小説とは異なるエンディングを作り上げ、見事に昇華した手腕は見事としかいいようがない。
■『ハリーポッターと炎のゴブレット』
人気シリーズ「ハリーポッター」の第4作目にして最高傑作!とのふれこみだ。僕は正直どうしてこの映画をみたのか、まったく思い出せない。とにかく疲れていた。疲れ果てていたのです。なんでもいいからとにかく映画が見たかった。もちろん小説未読、前3作も未鑑賞である。とはいえこれだけの話題作ですから、なにかしら見るべきものがあるに違いない、と思ってみたものの、あきれるほど何もなかった。強いて言えば、ハーマイオニーなるヒロインの女の子が可愛かったことぐらい。
子供が見る映画なのだろうが、俺が仮に子供だったとしてもこんな映画は絶対見ないね!
■『エリザベスタウン』
もし自分に一生分の不幸が突如として訪れたとき、この映画に出てくるキルスティン・ダンストのような励まし方をしてくれる女の子がいたら、間違いなく一発で恋に落ちると思う。本気で落ち込んでいる人を元気づけるというのは、本当に難しいことなのだ。それにしてもキャメロン・クロウ監督って人は「米国版萌え」とでも言うべき、男心がよくわかってる!このロックマニアの監督は、これまでの人生でよほど女の子にひどい目にあわされたに違いない。サントラも秀逸。
■『イン・ハー・シューズ』
もしあなたが次女で、おねいちゃんに対してなんらかのコンプレックスを持っていて、世の中と折り合ってる自分に割り切れない思いを抱いているなら、この映画を見た方がいい。この映画のキャメロン・ディアスは本当に可愛い。彼女の笑顔でハッピーな気分になれるし、ストーリー自体もストレートだが、決して飽きることはない。
■『THE 有頂天ホテル』
鑑賞中はおおいに笑ったが、それ以上でもそれ以下でもない。
やっぱり登場人物はどう勘定したって多すぎるし、それをまとめることに終始した結果、何がしたいのか全くわからない作品になってしまった。
意欲的でもなければ、失敗作でもないという意味でひどい映画。
ちょっと遅いニュースだけど、豊田利晃監督が逮捕されてしまいましたね・・・。
豊田容疑者の映画「空中庭園」10月公開
覚せい剤取締法違反の現行犯で逮捕された映画監督、豊田利晃容疑者(36)の新作映画「空中庭園」の製作委員会は29日、映画を予定通り10月上旬から全国で順次公開すると発表した。同委員会では、事件後公開の是非を検討してきたが、上映を望む声が劇場などに寄せられ「観客への責任を全うしたい」と公開を決めた。
東京、大阪の劇場で上映予定だった東京テアトルは「社会的道義的責任は重い」として、公開中止を独自に決めている。
「空中庭園」は角田光代さんの小説が原作で、東京郊外を舞台にした家族の物語。小泉今日子らが出演している。
[2005/8/29/20:19]
僕はこの日本人映画監督の作品が大好きでして。
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もう終わってしまったけど、
森アーツセンターにて開催していたフィリップス・コレクションは本当に素晴らしかったですね!
特に目玉作品とされていたルノワール『船遊びの昼食』の素晴らしさは、文字通り筆舌に尽くし難いものでした。
この絵画が放つ空気感は、まさしく19世紀のパリの光景を鮮やかに映し出していたのではないかと思う訳です。
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フランスの映画監督があるインタビューの中で、次のように述べている。
曰く、『映画について書くことは、映画を撮ることと同じことだった』、と。
評論家出身の彼らしい発言だが、ここにはそれに留まらない映画への決死の愛と、そしてたしかな決意表明がある。
映画について、よかった、悪かった、好きだ、嫌いだ、ですませるのは簡単だが、『映画について書くことは映画を撮ることと同じなのだ』とやみくも信じてみること。そしてそれに自覚的であるということ。まずはそこからスタートして「自分なりの戦い方」のようなものが、おぼろげにでも見えてきたらいいな、と思ったりする。
もちろんマスター・オブ・ジェダイへの道は険しく遠いのだが。
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もうすぐ日本でも公開される『アビエイター』。その試写会に行ってきました。
すでに劇場でトレーラーも流れているし、オスカーの有力候補としてちらちら名前が挙っているから、耳にしたことがある人も多いと思うけど、まだ少しでもハリウッド映画に希望を持っている人なら、この映画は見た方がいい。
レオナルド・ディカプリオという俳優は、ふとした瞬間の視線のむけ方ひとつですべての感情を表現できる、当代きっての名優だと思うのだが、この映画では、『ギルバートグレイプ』以来の、役柄と俳優の奇跡的なマリアージュが成されていると感じた。
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『この世の外へ クラブ進駐軍』のDVDを見た。
期待はずれもいいところ。戦争だとか家族だとか、音楽だとか。色々取り上げたいテーマがあるのは分かるけど、すべてが中途半端。薄っぺらい人間ドラマはただ苦笑して見るしかない。
何よりJAZZという音楽を語るのはとても難しいはず。帝王マイルズでさえ、自叙伝で「どれだけ「クール」かどうか」という価値基準であらゆるもの事を判断してきたというのに、こんな饒舌にJAZZを語ってしまうなんて台無しだ。ああ、こんなことなら、まともなライブDVDでも見ればよかったよ。。。
時として人間とは不条理な生き物だ。
もうイヤだ、嫌いだと思っているいるのに離れられない恋人。2度と手を出すまいと思っているのについ打ってしまう何か(ドラッグ/パチンコ等)。深夜に食べちゃだめだって分かってんのに気付いたら「全部のせ」ているラーメン。そう、人はやってはいけないことをついやってしまう習性がある。そこに落とし穴があると分かっていながらハマる気持ちよさ。不条理な選択は、いつだって損得感情やメリットデメリットでは量れない快感を伴うのだ。そして僕もまた、そんな不条理ゆえの快感に絡めとられてしまった一匹の子羊だった??。
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昨年恵比須ガーデンシネマで公開されていて、ぽつぽつ話題になっていた映画「グッバイ、レーニン」のDVDを見た。
この映画は壁崩壊前の東ドイツが舞台になっており、社会主義国家の理想に燃える母親とその息子周辺を描いたドラマだ。とはいえ物語の主題は政治ではなく、あくまでも母親とその息子の関係性にある。自分も母親を持つ息子の身としては、主人公の男性に感情移入することができ、非常に身につまされる思いがして胸が熱くなった。
この映画の見どころは主人公がその母親に対して大掛かりな嘘をつくことであり、その嘘が徐々に破たんしていく滑稽さと、それでも嘘を貫こうとする時の切なさが見事に表現されている。僕もよく母親に大嘘をついては見破られはしないかとひやひやしていたので、非常に身につまされる思いがして胸がさらに熱くなった。
あと東ドイツという国のことを僕はあまり知らない。今周りに溢れるドイツ製のモノや、人生の中で出会った幾人かのドイツ人。それらのモノや人はすべて西ドイツ的ドイツなのだ。この映画により東ドイツという国に興味を持ったので、少し掘り下げてみようと思っている。