後輩から本を借りた。
曰く、「この本、女心がわかるすよ」。
お前ついこないだ彼女にふられとるやないかい、
と喉元まで出かかったセリフを飲みこみ、
「お、そう。読んでみるわ」といって借りたのが、これ。
『対岸の彼女』 角田光代。本年度の直木賞受賞作です。
結論からいうと、かなり良かった。女流、ということで言えば近年稀にみる直球ド真ん中で刺さった作家かもしれない。
話の構成は2つの物語を交互に進めて行く『世界の終わり』型サスペンド方式。そしてこの方式をとった場合最も作家の力量が試されるのが、その交点を如何に設計するか、というところではないだろうか。2つの物語をどのように交わらせるか、にすべての創意工夫とテクニックをこらさなければならない、と僕は思うのだ。
そしてこの小説の構成が見事なのは、その2つの物語がある一人の女性の過去と現在であるということ。そして、終盤の章において過去の物語を進行していたストーリーがぐぐっと早回しになり、一気に現在に追いつくところ。この交点の作り方が見事だ。
そこには、それまでの時間軸を猛スピードで飛び越える心地よさがあり、じっくり読ませてきた過去の物語を一挙に「過ぎ去った出来事」にしてしまうリアリティがある。はたして女の子がこの小説を読んでどう思うのかが非常に気になった。
惜しむらくは、出版社のあおり文句。「「負け犬」の葵と『勝ち犬』の小夜子」、などとしてなまじ時流に乗らせようとするのはあまりにこの小説に失礼ではないか。この小説には普遍的な少女期への憧憬と汲めど尽きぬ大人の悩みが描かれているのだから。
追記:作者の角田光代さんは早稲田大学の第一文学部なのですね。この学部がなくなるというのは、かなり衝撃的なニュースでした。
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